はじめまことの新文芸研究所

私が抱えている新文芸リストをもとに、新文芸を分析し記事にしていきます

第四回 ライトノベルにおけるコミカライズの増加とその傾向について

 二週間ぶりです。はじめまことです。前回の記事をたくさん読んでくださりありがとうございました。先週は休んでしまいましたがこれには書くネタがないという極めて深刻な問題によるもので、私は決して悪くないのです。誰か私にネタを恵んでください。難易度次第ですが次回以降のブログの題材にします。

 

 というわけで、今回はライトノベルのコミカライズの増加とその傾向について。皆様もご存じの通り、近年ライトノベルではコミカライズの数が急激に増加している。ラノベの杜のコミカライズのページは急速に数を増やしているし、wikipediaの「ライトノベルの漫画化作品一覧」を見れば、作品数の指標となる出典の数が10年代前半には386だったのが、10年代後半には834、20年代にはまだ今年が9ヶ月残っているというのに1400の出典が登録されている。おそらくだが、ここ数年のアニメ化ラッシュにも少なからぬ影響を与えているだろうと思われる。原作が3-5巻くらいで完結していたはずの作品が急にアニメ化決定とか言い出したら大体コミカライズが関わっている。

 

 このような大コミカライズ時代は、アルファポリスが先駆けとなったと言われている。アルファポリスコミックスにおいて『ゲート』のコミカライズが始まったのは2012年であり、2014年頃には既にコミカライズの量産体制に入っている。アルファポリスは原則全てのコミカライズを自社レーベルによって行い、小説投稿サイト・書籍公式サイト・漫画連載サイトを一本化し相互に誘導をかけることによって大きな成功を得た。自社の専門レーベルによるコミカライズという方式はすっかりライトノベル市場、特に非KADOKAWAレーベルにおいて一般化しており、最近ではある年にそのレーベルで出た新作の9割がコミカライズされるような事態も起きている。オーバーラップのコミックライドやHJのHJ COMICS、TOブックスのコロナ・コミックスなどアニメ化作品を多数抱えるレーベルも現れてきており、。

 さて、そんなコミカライズについての情報をリストに載せることにした私だが、これは何もライトノベルにおいてコミカライズが重要になってきているからではない。ライトノベルの中でも特にweb小説や新文芸と強く関係するファクターであると思うからこそ調査を決行したのである。書籍化レベルのweb小説には固定の読者が一定数ついており、書籍の小説と比べて媒体の違うコミカライズは原作読者に買われやすいことや、先の展開がわかることで企画が打ちやすいことなど、コミカライズにおいて有利になる要素が揃っている。下で書いた通りweb発作品のコミカライズ率が非web発に比べて高いのは長編率やレーベルの特性だけではないはずだ。

 

 といつまでもお気持ちを表明していても仕方がないのでいい加減に本題に入ろう。まずは基礎データとしてコミカライズ作品のレーベルをまとめたもの。23シリーズ(全コミカライズシリーズ数を50で割って1を足した数)以下のレーベルはその他に分類されている。こうしてみると、KADOKAWAレーベルはコミカライズが分かれている一方、アルファポリスやレジーナ、オーバーラップ(ガルド)やTO(コロナ)あたりのレーベルや編集部をまとめて自社で扱うレーベルは作品数が多くなる傾向にあるようだ。また、女性向け作品は(そもそもコミカライズ作品数がまだまだ少ないとはいえ)レジーナ、FLOS、B's-LOG以外はその他に入っており、コミカライズが分散されている可能性がある。女性向けは急速に売れ線になったため新規参入してくるレーベルが女性向けに手を出しやすいことも影響しているかもしれない。

 

 では、今回の題材である「増加」について扱っていく。下のグラフは調査範囲内での書籍とコミカライズの一巻発売日を年別にカウントしたものである。例によって調査範囲はブログの第一回ならびに月猫通り2183を確認されたし。ただし今回は同一タイトルの作品は最初に出た一作のみカウントしている。

kaz-lightnovel.hatenablog.com

 書籍化が2013,14年あたりに爆発的に伸びたのに比べると穏やかな伸び方ではあるが、コミカライズ数も年々増加している。2019年の伸びが特に顕著と言えるだろうか。というか書籍の作品数は20年代に入ってから減ったと思ったら23年に急にめっちゃ増えたのはなんなんだろうか。

 

 続いては、コミカライズ開始年別書籍開始年の分布。両方とも単位が日付なので大変わかりづらいが、上から順に2016,17年、2018,19年、2020,21年、2022,23年にコミカライズの一巻がはじまった作品の書籍一巻発売日の統計を取ったものである。右の方に数個生えていたりするが、おそらく誤入力で生まれたデータなのでとりあえず気にしないでいただきたい。

 どのデータも、調査範囲の一年前か、もしくは調査範囲一年目で最も数値が高くなっており、概ねシリーズ開始から二年程度のタイミングでコミカライズが始まることが多いようだ。特徴的であるのは、2016,17年のグラフでは2017年に数値が0であるが、他のデータでは調査範囲二年目に15-20作品程度の数値があることである。小説の発売とほぼ同時にコミカライズがスタートしたり、あるいはコミカライズの方が先に始まっているというような現象も見られるようになってきているが、2019年ごろには少なくとも一年以内にコミカライズの書籍まで出るという事象が一定数存在していたようだ。

 

 続いては、横軸にコミカライズ一巻発売日をとり、小説書籍一巻の発売日別に分けたもの。上から順に2012-14、2015-17、2018-20、2021-23に小説一巻が出たもののコミカライズ発売日分布である。例によって存在しないはずの数値がトンネル効果的に漏れているが気にしないでほしい。

 このグラフからも、小説とコミカライズの一巻が同じ年に出る事象は2015には0、2018には7、2021年には15件発生している。範囲の三年目を比較すると、2023年は範囲別に1,4,16,145シリーズ、2020年は3,10,129シリーズと範囲内にほとんどのシリーズが入っており、9割がたのコミカライズの発売が小説発売から三年以内に行われていることがわかる。また、範囲の二年目を比較すると、2022年は3,8,54,104、2019年は4,43,75となり、小説発売から二年以内にコミカライズが発売されるケースは2/3ほどであるようだ。

 

 そもそも、コミカライズまでの日数について調査するならその値の分布を見るのが最も早い。というわけで、小説の一巻が発売されてからコミカライズの一巻が出るまでの日数の分布。コミカライズした全984作品の分布である。

 最頻は300-400となっており平均値は390日、中央値は487日。730日以内のデータ数は747件で、全体の3/4が二年以内にコミカライズの一巻を発売している。というか1800日=五年を超えるコミカライズの事例が40件もあることが驚きである。

 傾向の変化も見ていこう。コミカライズ一巻発売日を二年ごとに区切ったものがこちら。代表値も載せておく。

  2016,17 2018,19 2020,21 2022,23
作品数 84 198 287 330
中央値 734 483 453.5 460
平均値 794.294118 592.675 563.934028 595.486567

 分布としては、2016,17年の分布以外は概ね同じような形をしており、代表値でも見ても2016,17年以外は概ね400台後半の中央値と500台後半の平均値ということになっている。2018年以降のコミカライズについては一年以上二年以下くらいの間隔で見るのが正しいと言えそうである。

 

 続いては、ジャンル別のコミカライズについて。例によって男性文庫、男性大判、女性大判、中性大判の四ジャンルについて扱う。その順番でジャンル別に青で小説の一巻開始日の、橙でコミカライズ一巻開始日の分布を取ったのが下のグラフになる。

 

 ある程度の違いはあれど、どのジャンルについてもコミカライズは増加傾向にある。女性向け大判のコミカライズが2015年まで行われておらず、全体的な作品数についても他のジャンルに比べて小さいのは特徴と言えるだろうか。また、中性大判ではなんと小説よりも多い数の作品が開始されているというのだから驚きである。TOブックスは2020年の新作の85%、2021年の新作の95%がコミカライズされており、他にも全体的にコミカライズ率の高いレーベルが揃っている中で急に一年で刊行点数が低下すればこういう状況にもなるのかもしれない。と言いつつこれを打ちながら関数の設定ミスなどによる誤りである可能性を疑っている。

 これまでの分析で、コミカライズは1-2年遅れくらいが標準であるという仮説が立っているが、それを仮定してこの図をみると、おおよそ局所的な原作数の増加がある程度平準化されたグラフがコミカライズの分布と相似になることがわかる。例えば男性文庫の2019や、男性大判の2015,2018、女性大判の2018などの突発的な増減が1-2年後ではだいぶ緩和されて分布に出ることがわかる。顕著に影響が見られるのは中性大判の2021-2022の大幅な減少くらいであろう。これの意味するところは、一時的に作品数に増加が見られても、結局コミカライズされるほど伸びる作品数には限りがあるということであろう。読者の購入量の頭打ちや出版社の都合などにより、結局一気に作品数を増加させても徒らに散る作品の数を増やすだけであるようだ。

 

 続いては、web発と非web発の比較。上がweb発、下が非web発である。あまりにも顕著に差が出た。

 

 web発については、二年前の小説のシリーズ数と比較すると、2017年ごろまではおよそ1/3であったのが徐々に上昇していき、2019年に1/2を突破。現在は6割弱で安定している。2023年に小説のシリーズ数が爆発的に上昇しているので、これから先どうなるかは後数年データを追わなければわからないが、やはりweb発作品では半数以上の作品がコミカライズまで辿り着くようだ。

 一方、非web発はまずコミカライズの事例が驚くほど少ない。というか2021年は何があったんだ。事例が少ないため誤差が大きいということを念頭においた上で、大判における1-2年というコミカライズまでのラグを当てはめるには小説の刊行点数とのズレが合わないのも気になる。2021年の大幅な低下は2020,21年の作品数の低下と関係があるとすれば、大判と比べて小説の市場の影響がより短いラグで伝わっていると考えるべきだろう。実際、非web発作品はそのほとんどが文庫であり、文庫レーベルは基本的に大判レーベルと比べて刊行間隔が短いという特徴を持っている(シリーズごとの平均刊行間隔の中央値で比較すると28日、平均値で比較すると31日と、一巻につき一月ほど遅くなる)。そのため、作品の趨勢が決するのが早く、コミカライズに小説の刊行点数の影響が出るのが早いという仮説が立てられる。実際、前述した男性文庫の作品数の分布で2020年に少々の低下が見られるが、これが2021年のコミカライズ作品の低下に影響を与えているようにも見える。他のジャンルではこのくらいの小説の点数の減少はコミカライズの分布では無視されるかせいぜい横ばいになる程度であり、文庫媒体に特有の減少であると考えられる。

 

 さて、例によって更新時間が迫っているため、今回の分析はこの辺で。今まで散々買えよ買えよと言ってきた月猫通り2183の情報が所属サークルの公式Twitterから出たので、今週金曜くらいにその告知と、合わせて私の使っているデータリストの販売について書いた番外記事を出したいと思う。冒頭で言った通り分析のネタがなくなっているので「あれを分析してほしい」と言った要望があれば是非コメントまでお願いします。

今回のまとめ

ライトノベルのコミカライズの作品数は順調に増加を続けている。

・コミカライズの一巻発売日は小説の一巻発売日から見て一年半程度で、二年以内に3/4程度が発売される。

・ジャンル別では女性向けのコミカライズが少ないが、コミカライズ率に関してはどちらかといえばレーベルの体質の影響が大きい。

・調査範囲の影響もあるとはいえ、ライトノベルのコミカライズのほとんどはweb発で行われている。

・文庫媒体では作品の趨勢が決するのが早く、それに伴いコミカライズ作品数が小説の作品数に影響されやすい。